「あと1年で楽になるはず」を、1行ずつ転記したら「2年後」だった——それでも不安が消えた話
あと1年がんばれば、楽になるはずだ。
社長は、だいたいこの「はず」で生きている。僕もそうだった。
コロナの緊急融資が飛び交っていた時期の話である。うちは借入に加えてリースが多く、毎月の支払額が重かった。頭の中ではこう思っていた。リースはだいたい5年で終わる。順に終わっていけば、あと1年くらいで、だいぶ楽になるはずだ——。
根拠は、なかった。感覚である。
ある日、腹を決めて、借入とリースの一覧表を作ることにした。経理の担当がまとめてくれた表はあったのだが、人の作った表は、どうも自分の頭に入ってこない。だから自分好みの形に、ゼロから作り直した。時系列で並べ、グループ会社ごとに分け、1行1行、契約書と返済予定表から転記していく。
これが、面倒だった。
何が面倒といって、和暦である。書類によって令和だったり平成だったりする。そのたびに「平成30年は西暦何年」と検索し直す。1行進むごとに元号とにらめっこ。いま思えば換算表を1枚印刷しておけば済んだ話だが、当時はそれすら思いつかないまま、ひたすら転記した。
そして、全部の数字を並べ終えたとき、答えが出た。
楽になるのは、1年後ではなかった。2年後だった。
感覚より、1年も遠かったのである。
ところが、不思議なことが起きた。悪いほうの答えが出たのに、不安が消えたのだ。
手持ちのキャッシュと、毎月の返済額と、契約ごとの終了時期。それが1枚に並んだ瞬間、「2年後にはこうなる」という見通しに、裏付けが付いた。なんとなくの「はず」で耐える1年と、数字で確定した2年。しんどいのは同じでも、心持ちがまるで違う。
社長の不安の正体は、数字が悪いことではない。数字を知らないことだ。
このとき、もうひとつ習慣ができた。月初に、銀行の各口座を締めた残高を送ってもらい、予測の表と答え合わせをする。誤差が数万円なら上出来。100万円くらいズレていたら、何を見落としたかを調べて、次の予測に織り込む。
予測は、当てるものではない。直し続けるものだ。 毎月の答え合わせを繰り返すうちに、2年先の資金繰りが、天気予報くらいの精度で見えるようになっていった。
さて、ここからは現在の話。
あの転記を、いまの僕はAIにやらせている。和暦の変換も、表の組み直しも、一瞬で終わる。向こう2〜3ヶ月のお金の流れを、仮の数字でいいから先に見る——僕はこれを「未来通帳」と呼んで、自分用の道具にした。通帳の続きが、先の日付でどんどん印字されていくイメージである。
ただ、順番だけは間違えないでほしい。
最初の1回は、手で触ることを勧める。1行1行、自分の指で転記した社長だけが、AIの出してきた予測を「合っている」「怪しい」と検収できる。道具は作業を消してくれるが、数字の土地勘までは、くれない。
あの和暦だらけの面倒な転記は、僕にとって、数字が不安の敵ではなく味方だと知った最初の体験だった。
「はず」で耐えている社長へ。1行ずつ、触ってみてください。答えが感覚より悪くても——不安のほうが先に消えます。
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中山博之(ニタ)/ニタ@AIと会社を経営する55歳
会計ソフト会社に29年、社長業は19年目。中小企業の現場で生まれた仕事の仕組みを、AI時代向けに作り直しています。

